銀行が100億円の資産を持っていても、そのほとんどが返す必要のあるお金で支えられていたらどうなるか。自己資本は、損失を受け止める余地として見るとわかりやすい。
資産100、負債92、自己資本8の銀行
まず規制上の計算を省いた架空例を使おう。資産が100億円、預金などの負債が92億円なら、その差の8億円が会計上の自己資本になる。貸出の損失で資産が3億円減ると、負債がそのままなら自己資本は5億円へ減る。自己資本が最初の損失を受け止めるという意味だ。
この8億円が別の金庫に現金として積んである、という意味ではない。イングランド銀行も、資本を資産として「保管する」と考えると誤解を招くと説明している。資本は資金調達の側の概念であり、現金などの資産の種類とは区別される。
自己資本が少ないほど、同じ3億円の損失でも影響は大きい。自己資本が4億円なら残りは1億円、8億円なら5億円になる。資産規模が同じでも耐えられる損失の余地が違うため、「大きい銀行だから十分安全」とは言えない。規模と損失吸収力を分けることが、この数値例のポイントだ。
この節の参考資料:Bank of England:資本と流動性の区別
国際的な共通ルールが必要になった
銀行が国境を越えて活動すると、各国の資本基準の違いが安全性や競争条件に影響する。BISの公式沿革によれば、1980年代の国際的な信用不安と資本比率への懸念を背景に、1988年のバーゼル合意がまとめられた。
同合意が示したのは、リスクで重み付けした資産に対する最低8%という基準だ。単純な総資産の8%を現金で置くルールではない。さらに、その後の改訂で資本の質、追加の余裕、流動性などの枠組みが発展した。1988年の数字だけを、今日のすべての銀行に必要な水準として使ってはいけない。
この節の参考資料:BIS:バーゼル委員会・資本規制の歴史
同じ100万円でも、リスクは同じではない
リスク加重資産という考え方は、資産を金額だけで足さず、リスクを反映して測ろうとするものだ。ただし、資産の分類や計測方法を変えれば比率の見え方も変わる。比率が高いからといって、内訳や計算方法を確認しなくてよいわけではない。
最初の架空例で自己資本が8億円、総資産が100億円なら単純比率は8%だ。仮に規制上のリスク加重資産が60億円で、対象となる規制資本も8億円と置けば、規制比率は約13.3%になる。数字の分母が違うだけで印象が変わる例であり、実際の規制計算にはさらに条件がある。
この節の参考資料:Bank of England:資本と流動性の区別 / BIS:バーゼル委員会・資本規制の歴史
健全でも、今日払えないことはある
資産が負債を上回っていても、資産が長期貸出ばかりで現金化できなければ、引出しに対応できない場合がある。これは流動性の問題だ。一方、資産価値が大きく失われれば、支払日を延ばすだけでは損失は消えない。資本不足と資金繰り不足は関連するが同じではない。
銀行を見る際は、どの自己資本比率か、何を分母にするか、流動性の備えはどうかを分けよう。自己資本規制の成り立ちは、「破綻しない保証」を作る歴史ではなく、損失への耐性を共通のものさしで測ろうとする歴史なのである。
この節の参考資料:Bank of England:資本と流動性の区別 / Bank of England:資本とは何か
仕組みを理解するための一般的な解説です。数値例は架空で、個別商品の推奨や取引の勧誘ではありません。実際の契約・制度・適用条件は商品と国・地域で異なります。

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